Unityの料金変更で何が起こっているのか、そして何を怒っているのか

この記事は2023/09/12にUnityが発表したRuntime Feeに関するものです。
(Unity のプランの価格設定とパッケージの更新 | Unity Blog)

部外者からは分かりにくいかもしれないのですが、開発者たちは単なる値上げ問題で不満を述べているわけではありません。もっと根源的な脅威や恐怖に対して声を不満や怒りをあらわにしているのです。そのことについて述べていこうと思います。


今回の件は大きく分けて2つの問題が起きています。
1つ目は料金を変更しRuntime Feeを導入するということで、
2つ目はTerms of Serviceの遡及性についての保証が失われたことです。
1つずつ見ていきます。

Unity料金の仕様変更について

詳しくは実際のページを見ていただく(Unity のプランの価格設定とパッケージの更新 | Unity Blog)としてそのページに記載されているまとめ図が下図になります。

PersonalやProなどのプランごとに詳細の料金は変わりますが、ざっくりいえばインストール数に応じて料金が発生するという形になったということです。これまでUnityは定額の使用料金の支払いのみでしたが、それに加えてまったく別の軸の料金体制が追加されたという形になります。
利益とインストール数がそれぞれ一定数を越えた場合のみ支払うこととなっています。

Terms of Serviceの遡及性についての変更

まずTOSの遡及性について軽く説明しましょう。TOSの遡及性とは簡単に言えば過去のUnityバージョンで作ったモノは、その当時のUnityの契約に則るという内容です。例えば仮にUnity2023ではネットライブラリの利用が無料だったのにUnity2025では有料になったという場合であっても、Unity2023でリリースした限りにおいては当時のライセンスが適用され無料であるということです。
これはUnity自身が2019/1/17に発表し(更新した利用規約、そしてオープンプラットフォームであることへのコミットメント | Unity Blog)保証していました。また2020/3/10に最終更新されているTOS条項(Terms of Service Software Legacy (unity.com))の8.MODIFICATIONSにも確かにこのことが記載されています。


Unityの新料金体制が過去にリリースされたすべてのゲームに対して適用されると発表があったため、このTOSの遡及性について明確に侵害されたと捉えられています。現在では最新のTOSを記載したGithubにアクセスできなくなっており、正確な条項は確認ができず、極めて不透明な状態となっています。

問題点

インストール料金の妥当性

価格改正の問題点はインストール数と利益が必ずしも一致しない点にあります。Personalであれば1インストールあたり0.2ドルの支払いとなっていますが、Free to Playの場合、1インストール単価がこれを下回る場合があり得ます。例えば単純計算として、利益が20万ドルに達した際のインストール数が1憶インストールだとした場合、Unityに支払うべき額は2000万ドルであり、利益より損害のほうが多くなってしまいます。実際に起こるかどうかは別として、クリエイターはUnityで作られた製品をリリースしている場合は常にこの危険性について意識していなくてはいけません。

利益の数パーセントのマージンとよく似ているように思えますが、これは大きく異なります。マージンであれば利益がなくなった時点で支払いは発生しませんが(一部の特殊な条件を除く)、このインストール料金の場合、利益を失った製品であってもどこかWeb上、あるいはハードディスクなどにでも残っている限りいつでもどこでも支払いが発生する可能性があるということです。つまりUnityで製品を作ること自体が潜在的に負債になりうるという恐怖があります。販売者側にコントロール不能な要件で負担が生じているところに問題があります。


儲けているならUnityに還元すべきという話は理解できますが、儲けていないのに未来永劫に渡って金銭を支払わなければいけない可能性があるのは極めて危険だと言えるでしょう。
これが例えば、サービスを運営している最中であれば、儲けが出ないとなった時点でサービスの停止に踏み切れますが、ずっと昔に作成して放置していたものが知らず知らずに負債を生み続けているという状況にもなりえるわけです。

インストール数計測の信頼性

インストール数をどうやって計算するのかということに対する信頼性のなさがあります。発表当初は同一ユーザであってもインストールし直すたびに料金が発生するとしていたため、いっそうこの件に関して批判があがりました(Official – Unity plan pricing and packaging updates – Unity Forum)
現在では、同一ユーザの場合は最初の一回のみ支払いが生じることになっています。

1ユーザの複数回インストールで料金が発生する場合、文字通り測定不能の無限の負債が眼前にありましたが、1ユーザ、1インストールで売り切り製品の場合、マージンとほぼ同じなため、だいぶまともになったと言えます。
しかし、この状況下であっても、例えばコンシューマーのゲームカセットの場合、問題が生じるかもしれません。中古ゲームカセットが販売されることによって、別のユーザが別のデバイスにインストールするという状態は容易に考えられます。2023/9/16現在公式の発表はありませんが、これが複数カウントされる場合、ゲームカセットを販売した時点で無限の負債を負う可能性を秘めていると言えるでしょう。

また、計測方法については疑念があります。たとえば、あるゲームでは海賊版が流れているとして、それにもこの料金が発生するとすればまったく意図しない部分で料金の支払いが発生することになります。Unity側は海賊版に対しては検出ができるというような記述がありますが、一般認識では、現在そのような強固なシステムはこの世には存在していないとされています。

また、例えばUnityのシステム内部に計測システムが導入される場合は、ゲームの起動時に必ずネットワーク接続し、ユーザ照合が行われるというような機能が追加され、義務づけられる恐れがあります。これはオフラインですべてが賄えるDRMフリーという概念から遠く離れており、DRMフリーの意志を持つ開発者からは反発の声があがるほか、そもそもユーザプライバシーは大丈夫なのかという問題点もあります。
初めは過去にインストールした人数の料金もとるみたいなことを述べていましたが、現在は2024/1/1以降に発生したインストール数に対してのみ料金が発生するということなので、すでにリリース済みのソフトウェアに関しては影響は小さめにはなっています。

TOSの遡及性に関する危険性

TOSの遡及性があるということは現在行われているように、過去に作ったUnity製品が唐突に負債になりうるということです。現在は一定以上の利益とインストール数で閾値が設けられていますが、今後閾値がなくなり、無料ゲームを含めてすべてのUnity製品に支払いを命じるとなった場合に対抗手段がありません。サービスの停止や廃業ですら、すでにデータがネット上に流れたあとでは十分な対応とは言えないかもしれません。過去から未来までのすべてのUnityクリエイターが突如として巨額の負債を負いうる状態であると言えるでしょう。
日清が「最近物価高騰だし、値上げするか。じゃあこれまでカップヌードルを食べたことのある人はみんな食べた個数×10円の支払いよろ」とか言い出したら、こいつ正気か?と思うわけですが、発表当初のUnityの行動はこれでした。
現在は過去の使用については不問なわけなので、ダイソンが「うちの空気清浄機つかってるじゃん。買ったのがいつかとか関係なく、これから電源入れるたびに10円もらうね」と言ってるくらいの状態です。
どちらにしても遡及性事項に対し保証がないというのは非常に危険な状態であることが分かると思います。

一般ユーザーはどういった不利益を被るのか

現在Unity製で提供されているゲームやツールはサービス終了となる可能性があります。特にハイパーカジュアルと呼ばれる薄利多売のゲームや利益の薄いツール類はこれに該当しやすくなると思います。現在すぐにサービス停止とならない場合も、収益が20万ドルを越えそうになった時点で停止する可能性があります。
今後のサービスに関しては、Unity製のものが少なくなるという点でそれ以外はそれほど大きく変わらないでしょう。ソシャゲはUnity製のものが多いため、品質の高いソシャゲで遊べる機会が減る可能性は大いにあります。また、Free to playそのものが激減する可能性もあるでしょう。

開発者はどう対応する

大手企業はまったく他人ごとではないので、特に遡及性についての争論となるとみています。この遡及性問題如何によっては、前述したようにこれまでのすべての製品が唐突に負債となりうるためです。このままであれば、おそらくゲーム業界全体をひっくるめた裁判に発展することは容易に想像できます。中古販売に関しては、十中八九ソフト1本製造で1インストールということになるとは思いますが、ソシャゲに関しては完全に死活問題です。今後のUnityで作成された製品に関してはもうどうしようもないかもしれませんが、過去のUnity製品に関してはまだ救うことができるはずです。遡及性を争点として戦っていくほかありません。

また、遡及性の件で勝利を得ることができれば、開発者はアップデートしないUnityに関してはこれまで通り利用が可能かもしれません。もちろん、Unity側がUnityhubやダウンロード方法などに手を加えて、アップデートを強制してくる可能性もないわけではありません。個人的なオススメは今のうちに遡及性が保証されそうなバージョンのUnityや必要になりそうなパッケージをローカルにダウンロードしておくことです。それでさえ、Unity Personal等の一般的なサービス料としての月額料金の値上げに対しては有効打とはならない可能性がありますが、やらないよりはマシでしょう。

私はしがない1開発者なため、ささやかに声をあげつつ、Unityをローカルに保存しておこうと思います。いまのところ、現行Unityの機能でそれなりには満足しているため、遡及性が保証されるなら今後はバージョンアップをせずにこのまま開発を続ける予定です。Unityが計画を変更しなければ近いうちに代替となるエンジンの整備や支援が始まると思っています。即座の移行はしませんが、現バージョンのUnityではカバーしきれない状態になった場合に備えて、ゆるやかに移行していければと思っています。

合掌

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